最近、佐々木俊尚氏の著作『3時間で「専門家」になる私の方法』を読みました。
佐々木俊尚氏は、私にとって、
インターネットの仕組みの解説者として最も信頼を置いているライターの一人です。
この著作の主旨はタイトル通り
「インターネットを使えば3時間でその分野の専門家になれる」
というものです。


この著作のなかで取り上げられているテーマが「少子高齢化」であり、
調査を発展させていく過程で葬儀業界のことにも触れています。

で、やらかしちゃってる(^^;)

その記述の一部を要約してみますね。

・葬祭ディレクター制度は有名無実化している
・少子高齢化と2030年の死亡人口のピークによって葬儀業界は隆盛を迎える
・互助会のせいで葬儀業界は新規参入のハードルが高い
・新たなニーズに対応した葬祭業者が新規参入している

これらの記述は業界内部の人間が読めば違和感があるのではないでしょうか。
では一点ずつ、誤りを指摘していきますね。

・<葬祭ディレクター制度は有名無実化している>
私も1級葬祭ディレクターの資格を持っています。
たしかに葬祭ディレクター資格を持っているからと言って、
良い葬儀担当者とは言えません。
しかし、「医師免許を持っていても医者としての腕がよいとは言えない」からといって
「医師免許制度は有名無実化」しているとは言わないでしょう。
現在1級葬祭ディレクター試験の合格率は60%程なので
駄目な奴をふるい落とす落とすくらいの存在意義はあると思います。

・<少子高齢化と2030年の死亡人口のピークによって葬儀業界は隆盛を迎える>
たしかに亡くなる人が増えていけば、葬儀の件数は増えていきます。
利益=(葬儀単価−1件あたりのコスト)×葬儀件数 ですから
葬儀単価とコストはそのままで件数だけが増えていくのなら
たしかに将来有望な産業といえるでしょう。
しかしそうはなりません。
その点に関しては何度かこのブログで述べてきましたが、
もう一度簡単にまとめますね。
(いつもこのブログを御読みいただいている方は飛ばしちゃってください)
老人人口の増加の一方で少子化が進みます。
これから亡くなる団塊の世代は資産を持っていますが、
その子供の世代(つまり将来、葬儀という商品を購入する世代)は
雇用問題・年金問題・景気の悪化・終末医療費の高騰等により経済的に裕福とは言えません。
親から相続する資産も自分の将来を考えて葬儀費用には使わないでしょう。
そして平均年齢が伸びることで退職後の期間も伸びることになります。
そのため会社とのつながりが切れると同時に
地域共同体の衰退に伴う人間関係の希薄化が起こり、
葬儀が小規模化が加速していきます。
また宗教観の変化により、儀式的部分を省いた葬儀の簡素化が現在も起こりつつあります。
これらを総合的に考えると葬儀にかける費用は縮小するはずですし、
実際現在もどんどん縮小しています。
葬儀マーケット全体の規模が減ることはあるとしても増えることはないはずです。
結論として葬儀業界全体は全然有望ではない。
むしろ衰退産業です。

以上のことから今後葬儀業界が隆盛を迎えることはありません。

(ではなぜあなたははそんな仕事を続けるのか?と問われたら、
葬儀業界はダメでも自分の勤める葬儀社は生き残ることができると思っている
ということと、
なによりこの仕事が好きだからと答えておきますね)

また文中で述べられている2030年が死亡人口のピーク
という数字の出典はどこでしょうか?
出典が書かれていないので不明なんですが。
ちなみに人口問題研究所のデータでは
2038年がピーク(死亡人口170万人)という予想です。

・<互助会のせいで葬儀業界は新規参入のハードルが高い>
この記事の書き手は
互助会の新規登録と葬儀業界の新規参入を混同している可能性
があります。
確かに互助会には問題(無理な囲い込み、説明責任の放棄、積立金の半額しか補償が無い、互助会を始めるには経済産業省の許認可が必要等)は多いかもしれません。
(参照ページ:互助会

しかし葬儀業界への新規参入のハードルが高いのは
互助会のせいではありません。

6000社と言われている葬儀社の中で、互助会は300社と言われています。
いくら互助会に大規模の組織が多いとはいえ、
規模・売上げともに非互助会の葬儀社の方が多いのです。
また葬儀社は許認可事業ではありません。
以上のことから、どうしても互助会になりたいというのであれば経済産業省の許認可などのせいで難しいかもしれませんが、葬儀屋になること自体は全然難しくありません。
互助会に葬儀業界への新規参入を阻むほどの影響力があると考えるのは無理があります。

新規参入を阻んでいる本当の理由は以下の二つだと思います。

一つ目の理由は
「寺院と葬儀社が癒着して、檀家を囲い込んでいるから」
です。
自分の寺とつきあいのある葬儀社を使え
と言って、遺族が依頼しようとした葬儀社に施行させない寺院はたくさんいます。
少し古いデータですが東京都生活文化局の調査では
「6件に1件が菩提寺の紹介で葬儀社を決めた」
というデータがあります。
データの精度は分かりませんが、東京で6件に1件あるなら地方はもっと多いはずです。もちろんこれらのケースが全て強制であったとは言いません。
しかし私の経験では、一度依頼を受けた葬儀がキャンセルになるのは、
菩提寺が出入りの葬儀社しか使ってはならない
と檀家さんに強制した場合がほとんどです。

二つ目の理由は
「葬儀業界は、競争がどんどん激化しつつあり、
将来性を考えると有望業界とは言えないから」です。
現在全国的に葬儀会館は飽和状態にあります。
とはいうものの、地域によっては自社会館を持つだけの資本がなければ
スタートラインに立てないとも言えるのです。
一方でサービス業は人材が一番重要なので、
資本さえあれば良いというものでもありません。
さきほど葬儀業界は衰退産業と述べたように、
何となく参入して軌道に乗せられるほど葬儀業界は甘くないのです。

以上が「新規参入のハードルが高い」本当の理由です。

・<新たなニーズに対応した葬祭業者が新規参入している>
この本で上げられている「新たなニーズに対応した」数社の葬儀社のうち、
少なくとも一社は葬儀価格の設定が高すぎで、なおかつ不明瞭です。
新たなニーズに対応できているわけではないのです。
書き手が、イメージ戦略優先のわかりやすい葬儀社に飛びついて、騙されてます。
(参照ページ:葬儀業界におけるマスコミ報道とメディアリテラシー

以上のように、
なんで佐々木俊尚氏が葬儀業界の分析を間違い続けているかというと
ネタ元として押さえたJ-NEWSのサイトの情報が間違っているせいです。

上記の記事中にも
「(葬儀業界は)情報インフラもほとんど整備されていない。」
と書かれているんですから、
葬儀のことをネタにする時はもっと疑ってかかるべきでした。

つまりこれはネットリテラシー(インターネットメディアを主体的に読み解いて、必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のこと)の問題なんです。

以上のことから、タイトルのように
「結局3時間じゃ達人になれないよ」
っていう意地悪な言い方もできるのですが(^^;)
むしろ
ネットの達人でありネットリテラシーに優れているはずの佐々木俊尚氏ですら
3時間で正しい情報を引き出せないのがインターネット上の葬儀情報の実態である
というべきでしょう。

いや、実際製本にいたるまでに長い時間と労力をかけているはずですから、
佐々木俊尚氏ですらどんなにがんばっても正しい情報を引き出せないのが
インターネット上の葬儀情報の実態である

というべきでしょうか。

どっちにしても、そりゃ
一般の人は情報難民になってしまうよ
という話ですよね。

この惨状はいままで情報を発信してこなかった葬儀業界の責任です。
(参照ページ:葬儀社のホームページは質量ともに不十分である

だから葬儀業界は
週刊ダイヤモンドや島田裕巳氏の「葬式は、要らない」
の誤った論説が流布されることを嘆くだけではなく、
「消費者に分かる言葉で、正しい情報を発信する」
ことが大切だと思います。
(参照ページ:気は確かか?週刊ダイヤモンド
(参照ページ:「葬式は、要らない」島田 裕巳 の誤りを指摘する


<2010年03月12日>記載