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終活の現場から その2




本人が希望した内容で本人の葬儀を行ったのは
自分が入社10年目くらいのときが初めてだったと思う。

80歳くらいのおばあちゃんで、
戦後間もない頃に海外留学をしていたとのこと。
資産家の令嬢だったらしい。

末期癌と診断された数日後に
初めて私が呼ばれた。

厳しくてわがままで介護施設のスタッフの手を焼かせるときもあるが
「いつもお化粧を怠らないんですね」との私の発言に
「あなたが来るときだけよ」とプイと外を見ながら答えるかわいい面があるのを私は知っている。

彼女の話は長いのだが、
ベトナム戦争前のベトナムの美しい景色の話だとかが面白くて
ついつい聞き入ってしまう。
会う度に彼女はやせていったが、お化粧はいつも通りちゃんとしていた。

「どうしてそんなに平然としていられるんですか?」
「余命あとわずかのとき、この世界はどう見えるんですか?」
何度も尋ねてみたい衝動に駆られた。

最後に会ってから数ヶ月後、彼女が亡くなったと連絡を受けた。
直接本人から希望された内容で本人の葬儀を行うのは、私にとって初めての経験だった。

身寄りのない彼女の葬儀の出席者は
財産管理人の弁護士だけだった。

お葬式が終わってから、遺言通り、葬儀後の通知状を
私が代理で郵送した。
送り主は彼女の名前で。

葬儀の間、私はずっと恐怖を感じていた。

我々葬儀屋は常日頃
お葬式はやり直せないから、失敗は許されないという覚悟でいる。
しかしそれでも失敗したときに謝ることのできる遺族はいるのだ。

おひとりさまの葬儀の場合
謝る人はいない。

つまり失敗を償うことは永遠にできない。

さらに
完璧にやったとしても褒めてくれる人はいない。
こんなに厳しいものなのか、と愕然とした覚えがある。

それでも託される役割を誰か引き受けなければならない。
その日以来そんな気持ちでいる。
花2